Perplexity の回答エンジンが Google から検索を奪うための一手だったとすれば、Comet は戦線を「ブラウザ全体」へと広げるための一手です。Comet は AI アシスタントを内蔵したブラウザで、調べものを手伝ってくれるだけではありません。タブを整理し、メールを読み、さらには一連のタスクを自動でやり切ることもできます。

この記事では、Comet とは何か、組み合わせる Computer エージェントはどこまでできるのか、セキュリティ研究が指摘した懸念は何か、そしていま巻き込まれているブラウザ戦争について、ひと通り見ていきます。Perplexity という会社全体をまず知りたい方は、Perplexity とはどんな会社か から始めてください。

Comet 公式サイトのトップ:「The browser that works for you」、Perplexity のブラウザ、Mac/Windows/iOS/Android に対応(画像:Perplexity Comet 公式サイト)


Comet とは:自分で操作するブラウザ

見た目のうえでは、Comet はただのブラウザのようですが、その横にはいつも AI アシスタントが控えています。いま見ているページを要約させたり、開きっぱなしのタブをまとめさせたり、あるメールにどう返信すべきか調べさせたりできますし、ページをまたいで情報を比較してもらうこともできます。

タイムラインは覚えておく価値があります。Comet は 2025 年 7 月にまず有料の Max ユーザー向けに登場し(当時は月額がおよそ 200 米ドルにもなり、順番待ちが必要でした)、2025 年 10 月には無料ダウンロードへと切り替わり、2026 年 3 月には iPhone にも登場しました。いまは Mac、Windows、iOS、Android のいずれにもインストールできます。有料のハードルから一気に無料まで下げてきたところに、Perplexity がこの入口へユーザーを引き込もうと急いでいる様子がうかがえます。

法人ユーザー向けには、セキュリティ要件に適合した版も別途用意されており、シングルサインオン、監査ログ、集中展開などの管理機能に対応しています。これは企業の調達に食い込もうとする構成です。


Computer:「答える」から「やる」へ

Comet が手伝ってくれるブラウザだとすれば、2026 年 2 月に登場した Computer は、それを自動で物事をやり切るエージェントへとアップグレードしたものです。

Computer は、クラウド上で隔離されたサンドボックス環境のなかで、数百種類のアプリを連続して操作できます。Gmail や Slack から Notion、表計算まで、いくつものステップにまたがる長いタスクを一度にやり切ってくれます。その裏には賢い設計もあります。10 を超えるトップクラスの AI モデルのなかから、いまのタスクに最も合うものを自動で選んで使うのです。複雑な推論にはこれ、すばやい実行には別のもの、という具合です。まず Max ユーザーに開放され、続いて企業市場に入り、その後は一般の Mac ユーザーもデスクトップ版を使えるようになりました。

この一歩の意味は大きいです。Perplexity が自らを「答えてくれる検索ツール」から「あなたに代わって物事をやってくれるデジタルな従業員」へと変えようとしていることを示しているからです。そしてこれこそが、Amazon が同社と衝突した理由でもあります。Computer エージェントがユーザーに代わって EC のアカウントにログインし、自動で買い物をするようになると、プラットフォームと AI エージェントのあいだの権限の境界が一気にはじけます。この境界線については、回答エンジンの著作権戦争と AI エージェント訴訟 で詳しく説明しています。


セキュリティの懸念:AI に操作を任せる代償

ブラウザを AI に操作させることには、便利さの裏側があります。リスクが拡大するのです。しかもそれは、プロンプトインジェクションと呼ばれる、とても新しい種類のリスクです。

かみくだいて言うと、プロンプトインジェクションとは、悪い人がウェブページや画像、URL のなかに悪意ある指示をこっそり隠しておき、AI エージェントがその内容を読むと、それをあなたが出した命令だと思い込んで実行してしまう、というものです。複数のセキュリティチームが、すでに Comet を狙った攻撃手法を実証しています。Brave チームは、白地に白文字や画像のなかに指示を隠し、AI を誘導してユーザーの Gmail を読ませ、認証コードを取得して外部に流出させる手口を見せました。セキュリティ企業の LayerX と Cato も、それぞれ一本の URL だけで引き起こせる攻撃を実証しています。

ここでは、過度に怖がらないように、二つのことをはっきりさせておきます。第一に、これらはいまのところセキュリティ研究による概念実証のデモが多く、「このように攻撃されうる」という警告であって、既知の大規模な実被害はまだなく、いくつかは報告を受けて修正もされています。第二に、これはすべての「エージェント型ブラウザ」に共通する難題であり、Comet 固有のものではありません。OpenAI でさえ、プロンプトインジェクションはネット上の詐欺のようなもので、完全に根絶するのは非常に難しいかもしれないと公に認めています。

現実的な注意点はこうです。AI ブラウザに物事を任せるのはとても便利ですが、最も機微なアカウント(ネットバンキングや会社のメール)に一度に触らせるのはやめましょう。リスクは、自分が失っても耐えられる範囲に抑えておくことです。


ブラウザ戦争 2.0

Comet は一人で戦っているわけではありません。2025 年から 2026 年にかけて、新しいブラウザ戦争が本格的に始まりました。今回みんなが奪い合っているのは同じもの、AI への問い合わせの最初の入口です。ウェブページを描画する速さよりも、ユーザーがネットを開いた後に最初に接する AI になれるかどうかが、今回の勝敗を分ける鍵です。

OpenAI は自社の ChatGPT Atlas ブラウザを投入し、ChatGPT をそのままブラウジングのインターフェースに仕立てました。最大の脅威は Google です。新しいブラウザを別途作るのではなく、みんながとっくに使っている Chrome に Gemini のエージェント機能を直接組み込み、公開と同時に数十億の既存ユーザーに届く、史上最大規模のエージェント型ブラウザの展開と呼ばれました。さらに、Opera なども AI エージェントを売りにしたブラウザを投入しており、かつて Arc ブラウザで人気を博したスタートアップの The Browser Company は、この波のなかで企業向けソフトウェア会社に買収されました。

Comet の強みは、出だしが早いこと、体験が成熟していること、そしてモデル中立であること(複数のモデルを切り替えられる)です。その難題は回答エンジンと同じです。Google が 30 億の既存ユーザーという基盤で追い上げてくるなか、Comet は「これのために、わざわざブラウザを乗り換える」と人々を説得する方法を見つけなければなりません。


なぜブラウザなのか:入口をめぐる争い

一歩引いて見ると、Perplexity がブラウザに賭ける理屈は、実はとてもはっきりしています。

検索もブラウザも「ウェブの入口」であり、入口を握る者が、ユーザーの注意とデータを握ります。この 20 年、その入口は Google の検索ボックスでした。AI がゲームのルールを書き換えるいま、入口の帰属が改めてシャッフルされ、どの会社も、あなたがネットを開いた後に最初に接する AI になりたがっています。さらにブラウザは単一のアプリよりも粘着性が高いのです。あなたが見るものすべてを把握でき、ウェブサイトをまたいであなたに代わって動け、長期にわたってあなたの好みを覚えることで引きとめられます。

Perplexity にとって、Comet に Computer を足したものは、「検索ツール」から「日常の入口」へとアップグレードするための重要な賭けです。賭けに勝てば、回答エンジンだけに頼る状況から抜け出すチャンスが得られ、賭けに負ければ、向き合うのは同じ古い問題、入口は巨頭の手のなか、というわけです。その全体的な競争上の立ち位置については、Perplexity とはどんな会社か の市場でのポジショニングの側面と照らし合わせてみてください。


Penchanの視点

Comet は、思わず目を引く製品です。「検索」を「あなたに代わって物事をやる」へと広げ、方向性をしっかりとつかんでいます。しかし同時に、ある矛盾を表に押し出してもいます。自分のブラウザ、アカウント、メールボックスを、ウェブページに隠された一言の指示でいまだにだまされてしまう AI に、私たちはどこまで託す気があるのか、という矛盾です。

これこそ、エージェントの時代全体がこれから少しずつ答えていくべき問いです。Penchanの見方としては、この種のツールの価値はますます大きくなっていくものの、成熟には時間がかかります。いまの段階で賢い使い方は、低リスクで繰り返しの多い雑用(タブの整理、長文の要約、返信の下書き)をやらせ、ネットバンキングや会社の機密といった高リスクの操作は、ひとまず自分の手元に残しておくことです。弾はもう少し飛ばせておけばよいのです。安全のしくみが追いついてから、より多くの鍵を渡しても遅くはありません。

関連記事:Perplexity とはどんな会社か回答エンジンの著作権戦争と AI エージェントの判例Sonar とは