前回の ASIC の関 で触れたとおり、クラウド大手は NVIDIA を買うだけでなく、いずれも AI チップを自社開発しており、その中で最も歴の長いのが Google の TPU だ。本稿では TPU を噛み砕いて解説する。
まず TPU とは何か、GPU とどう違うかを見て、次に世代の進化、NVIDIA を取って代わるのか、そしてなぜ Anthropic までもが大量採用するのか、Broadcom と台湾メーカーがそこで何をしているのかを見る。これは AI ハードウェアサプライチェーン総まとめ の第1関「AI チップ」の、Google TPU 深掘り版だ。
TPU とは何か
TPU の正式名称は Tensor Processing Unit(テンソル処理ユニット)で、Google が自社開発した、機械学習のために誂えたカスタムチップであり、ASIC(特定のタスクに合わせて作ったチップ)の一種だ。
その設計思想は GPU とは異なる。GPU はより汎用的な並列演算チップで、何でも演算でき、ソフトウェアのエコシステム(CUDA)が成熟している。一方 TPU は、行列演算、HBM メモリ、チップ間相互接続、コンパイラ、フレームワークを一体で co-design(共同設計)し、AI の学習と推論に特化して、コスト・消費電力・遅延・スケール化の面でより割の合うことを目指す。たとえるなら:GPU は何でも切れるスイスアーミーナイフ、TPU は Google が自社のいくつかの料理のために誂えた包丁だ。
ひとつ明確にしておきたい:Google は NVIDIA を使わないわけではない。Google Cloud は NVIDIA と緊密に協力し、新世代の NVIDIA 機種を提供すると明言しており、TPU と GPU は Google Cloud の中で並行する2本の製品ラインだ。
コアデータのスナップショット
以下に TPU の要所をまとめておく。仕様は Google 公式、比率は調査会社の推計だ。
| 項目 | 内容 | 時点/性質 |
|---|---|---|
| 商用化済みの最新世代 | 第七世代 Ironwood(TPU7x) | Google Cloud 文書(2026-05) |
| Ironwood 仕様 | 単一 superpod に 9,216 基のチップを連ね、各基 192 GiB HBM | Google 公式 |
| 第八世代 | TPU 8t(学習)/8i(推論)2026-04 公開、未商用 | Google 公式発表 |
| Google AI サーバーの TPU 比率 | 2026 で約78%と推計(クラウド事業者で唯一 ASIC 出荷が GPU を上回る) | TrendForce 推計 |
| Anthropic の採用 | 最大で百万基、2026 に 1GW 超;2027 から Broadcom 経由で約 3.5GW | Anthropic/Broadcom SEC |
世代小史:v1 から Ironwood まで
TPU は新顔ではない。Google は2015年から自社データセンター内部で第一世代 TPU を使っており、初期は RankBrain、ストリートビュー、AlphaGo といったサービスを走らせていた。その後は進化を重ねた:第二・三・四世代は推論から大規模学習へと徐々に軸足を移し、第五世代はコスト重視の v5e と性能重視の v5p に分かれ、第六世代は Trillium(v6e)と呼ばれる。
現在商用化済みで Google Cloud 上で使える最新世代は、第七世代 Ironwood(TPU7x)だ:単一 superpod に最大 9,216 基のチップを連ね、各基に 192 GiB の HBM を備え、大型モデルの事前学習と推論に特化する。第八世代の TPU 8t(学習)と 8i(推論)は2026年4月に仕様が公開され、公式は1ドルあたり性能と1ワットあたり性能の向上を前面に出すが、現状は意向登録のみ開放で、正式提供(GA)の文書はまだ見られない。まずは「公開済み・商用待ち」と理解しておけばよく、すでに借りられるものと思い込まないことだ。
TPU vs GPU:NVIDIA を取って代わるのか
これは最もよく聞かれる問いで、答えは「Google 自社」と「市場全体」の2つの尺度に分けて見る必要がある。
TPU の強みは垂直統合にある:Google 自社モデル(Gemini など)の需要が直接チップ設計に影響を及ぼせるうえ、主眼とするコストと電力効率、超大規模の相互接続も相まって、Google 自身のワークロードでは大きな優位がある。調査会社 TrendForce は、2026年に TPU が Google 自社 AI サーバー出荷に占める比率が8割に迫り、Google は主要クラウド事業者の中で唯一「自社開発 ASIC の出荷が GPU を上回る」一社だと推計する。
だがそれは Google 自社の配分であって、世界シェアではない。市場全体に置けば、NVIDIA の堀はなお健在だ:CUDA ソフトウェアのエコシステム、成熟した開発ツール、クラウドやフレームワークをまたぐ汎用性が、いずれも GPU を主流に保ち、Google Cloud 自身も NVIDIA の機種を売り続けている。TPU は外部の開発者にとってはなお移行コストがあり、Google でさえ TPU の PyTorch ネイティブサポートを「プレビュー」段階と表示している。だから現実的な見方はこうだ:TPU は Google 自身と一部の AI 研究所で急速に量を伸ばしているが、短期では NVIDIA を取って代わるとは言えず、むしろ並存と分業に近い。
誰が TPU を使っているのか
まずは Google 自身。かつての検索ランキングやストリートビューから、いまの Gemini まで、Google 自社の AI 製品の多くが TPU 上で動いている。外部ユーザーは Google Cloud(Cloud TPU VM、GKE、Vertex AI)を通じて借りられる。
最も注目される外部顧客は Anthropic だ。2025年10月に Google Cloud TPU の採用拡大を発表し、規模は最大で百万基、2026年に 1GW 超の容量をもたらすという;2026年4月にはさらに Google、Broadcom と契約を結び、2027年から Broadcom を通じて約 3.5GW の次世代 TPU 算力を得る。注意すべきは、Anthropic は分散戦略を取っており、同時に AWS Trainium と NVIDIA GPU も使い、Amazon はなおその主要なクラウド・学習パートナーだという点だ。複数社を併用し、賭けを分散するのは、まさにいまの大手 AI 企業の常態だ。さらに、PE 大手のブラックストーン(Blackstone)も2026年5月に Google との合弁を発表し、米国に TPU クラウドを建てて、Google Cloud 以外の TPU 入手ルートを提供するという。
誰が Google の TPU を作るのか、台湾メーカーの役割
TPU のアーキテクチャとソフトウェアは Google 自身が握るが、チップの細部設計、製造、パッケージングはパートナーに頼る必要がある。
最も明確なのは Broadcom(博通)だ。Broadcom は2026年4月の SEC 文書で、Google と長期協定を結び、Google の今後の世代の TPU についてカスタム設計と供給を行い、次世代 AI ラック向けのネットワークなどの部材を提供すると確認した。協力期間は2031年に及ぶ。製造面では、市場は TPU の先端プロセスとパッケージングを TSMC に結びつけて語ることが多いが、Google は具体的なプロセスノードを公式には公表しておらず、この部分はサプライチェーンやメディアの推測にあたる。また、MediaTek が Google の次世代推論版 TPU の設計に関わっていると報じたメディアもあるが、同様に公式の裏づけはなく、「市場報道」として受け止めるほかない。
台湾株でよく言われる「TPU 関連銘柄」については、市場やアナリストが一連のサプライチェーンのメーカー(設計サービス、テスト、後工程、テストインターフェース、基板、放熱・電源など)を名指しする。ここははっきり言っておきたい:これらの名は多くが証券会社のサプライチェーン推測と受益の想像から来るもので、Google や Broadcom の会社公告ではない;名が挙がることは、受注済みを意味しないし、受益の度合いも意味しない。本稿は産業上の役割を描くだけで、受益銘柄を整理せず、個別銘柄のランク付けもせず、投資助言も構成しない。
この関の要点
TPU は Google 自社開発の AI 専用チップで、演算・メモリ・相互接続・ソフトウェアを一体で設計し、垂直統合でコストと電力効率を主眼に置く路線を取る。商用化済みの最新は第七世代 Ironwood で、第八世代 8t/8i は公開済み・商用待ちだ。
Google 自身の AI サーバーでは TPU の比率はすでに高い(調査会社は2026年で8割近くと推計)が、世界に置けば、NVIDIA は CUDA エコシステムと汎用性によりなお主流で、両者は Google Cloud の中で並存する。Anthropic までもが Claude を走らせるのに TPU を大量採用し、その背後では Broadcom がカスタム設計を担う。よく挙がる台湾メーカーの名は多くがアナリストの推測で、産業上の役割を理解しておけば十分、銘柄選びのリストと取り違えてはいけない。
Google TPU がどの種類のチップに当たるかを見たいなら、戻って ASIC とは を読んでほしい;GPU 主流の側を見たいなら、GPU とは と Blackwell を読み;これらのチップがどうデータを供給されるかは、HBM を読み;チェーン全体に戻りたいなら、サプライチェーン総まとめ に戻ってほしい。